OLYMPUS DIGITAL CAMERA今月上旬、今年度の『企画のたまご屋さん大賞』に老後はひとり暮らしが幸せ(辻川覚志/水曜社)が選ばれました。水曜社の仙道弘生社長に、記念のトロフィーを贈らせていただくとともに、受賞インタビューをいたしました。(写真左が仙道社長、右は担当プロデューサーのおかのきんや

地味なテーマで、ターゲットへのリーチが難しいと思われる「老後」企画を採用した理由とは? 医師の本についての見解や、販促方法なども含め尋ねました。

 

■患者さんと向き合う中で生まれたテーマor街のお医者さんが書くテーマ

——まずこの企画を見たときの印象を聞かせてください。

仙道社長:「これまで『ひとり暮らしは危ない』『孤独死が年間3万人』とさんざん言われてきたなかで、『初めて出てきた考え方だな』と思いました。しかも、『医師として現場で数多くの高齢者から拾い上げた声を基にしている』のも素晴らしかったですね」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA——著者の辻川さんは、大阪で耳鼻咽喉科の医院を開業するほか、高齢者在宅支援などを行ってきた医師でした。“医師の書く本”という観点ではどうお考えでしょうか?

仙道社長:「辻川さんのように、大学の研究室などではなく、“街のお医者さん”が書く本がもっとあってもいいと思います。日々患者さんと向き合う中で積み重ねたデータがあって、さらにそれを独自に研究している医師は貴重ですから」

——企画配信時、文章や構成などについてはどうでしたか?

仙道社長:「お医者さんが書く文章は、どうしても論文調になりがちで、グラフや表を多用したがるところがありましたね。そもそも論文は読者ではなく自分のために書くものなので、意識を変えてもらいましたし、構成も読者が読みやすい形に変えました。私と辻川さんは1952年生まれの同い年だったので、意思疎通はスムーズでしたよ(笑)」

 

■高齢者という販売層

——ターゲットが高齢者に限定されている分、販促は難しかったのではないでしょうか?

仙道社長:「ネットでの認知が期待できない年代ですし、書店にすら行くかどうかもわかりません。まずこの本があることを知ってもらわないと買ってもらえないので、マスとしての新聞広告に重点を置きました。動きが大きかったのは、読売新聞と各地域で最も信頼されている地方新聞です。全国にしろ、地方新聞にしろ、一番シェアの大きい新聞を読んでいる人に響く本なのかもしれませんね。特に気候の温暖な太平洋側でよく売れました。夫に隠れて買う奥さんも多かったみたいですよ(笑)」

——その他、販売面での動きはありましたか?

仙道社長:「変わったところでは、生協の『生活クラブ』から1000部ほど注文が来ました。生協は書店と異なり、返本がないのが出版社にとってはありがたいですね。ただ、選書委員が発注を決めるまでに半年間くらい必要です。その他では医師会からの注文もありました」

——現在の発行部数は?

仙道社長:「5刷3万部でまだ増刷すると思います。『老後はひとり暮らしが幸せ』が発売して10か月後の今夏に、2冊目の『ふたり老後もこれで幸せ』も出版しましたが、こちらが2刷1万2000部。相乗効果で売れるといいなと思っています」

 

■「老後」という企画との出会い

——著者デビューだった辻川さんには、その後もオファーが殺到しているみたいですね。

仙道社長:「私が聞いているだけでも3〜4社からオファーが来ていて忙しいそうです。テレビやラジオへの出演や講演活動もたくさんしているようですし、すっかり売れっ子さんですね」

企画のたまごやさん大賞

——『企画のたまご屋さん』は、「著者デビューの支援」を1つの使命として活動しているだけに、辻川さんのご活躍はうれしい限りです。(写真は著者の辻川氏)

仙道社長:「辻川さんはもともと原石としての魅力があった方なので、あとは『どう磨くか?』という観点だけでした。企画採用に関しては、『私が両親のことで老後の過ごし方に関心を持っていた』というタイミングも大きかったかもしれません。今回のような編集者さんと企画の出会い方に、『企画のたまご屋さん』の妙味があるのかな、と思っています」

——その他に、水曜社さんでおすすめの書籍がありましたら教えてください。

仙道社長:「『ヴァーグナー オペラ・楽劇 全作品対訳集』のような専門書もあれば、『MINIATURE LIFE(ミニチュアライフ)』 のような写真集もありますね。後者は価格2500円で現在4刷です。まだいけそうですから、写真集としてはヒットした方だと思います」

——最後に『企画のたまご屋さん』へメッセージをお願いします。

仙道社長:「よくあるような一般書から遠い“地味な企画”でもいけると思いますし、そういうものを待っている編集者さんもいるのではないでしょうか。辻川さんのような長年コツコツ研究してきた人や、地方でデータを積み重ねている人を拾い上げて欲しいと思っています」

——貴重なお話、ありがとうございました。

 

【『企画のたまご屋さん大賞』とは?】

一年間で『企画のたまご屋さん』から出版された本のなかから、出版プロデューサーと会員が、「面白さ・企画のユニークさ」「販売部数・オファーの多さ」という2つの観点で選んだもの。

(『企画のたまご屋さん大賞2014』の対象は、2013年10月~2014年9月に出版された46冊)

文責/『企画のたまご屋さん大賞』委員会 木村隆志