書評写真・イスラム国0068

『中東特派員が見たイスラム世界と「イスラム国」の真実』

荒木基(著)/ディスカヴァー携書

「日本の悪夢の始まり」という衝撃の言葉で締めくくられた「イスラム国」による日本人人質事件。当時、毎日のように報道された「イスラム国」関連のニュースは、とにかく過激で不安を煽るものばかりでした。

「イスラム国ってなんだろう?」

ニュースで目にする回数が多くても、そんな基本的なことがわからなかったりするのです。

現役の中東特派員である著者曰く、実は報道する側も同じなのだとか。テレビのニュースという時間的な制約がある中で、「今、起きていること」を伝えるためには、「イスラム国」そのものに関する情報を端折ることになるのです。報道される短い原稿を書きながら、伝えるべきことを伝えられない歯がゆさを感じていたとのこと。

そんなくすぶった思いを払拭すべく、この「ニュースで伝えられなかったイスラム国」は誕生しました。なんといっても「イスラム国」の怖いところは、何を考えているかわからいことではないでしょうか。彼らの目的は、「カリフ国家の建設」。ところが、神以外に「イスラム国」のカリフが従う権威はないという考え方のため、他の国や国連との対話すら否定しているのです。

日本人人質事件の最中にも、安倍総理が表明した2億ドルの支援はあくまで「人道支援」を想定したもので軍事的なものではない、と日本政府は主張した。しかしそんな説明は「イスラム国」にとっては全く無意味な話で、彼らに論理は一切通用しないのだ。そんな連中と渡り合う覚悟なしに、安易に自衛隊派遣と言うのは恐ろしいことである。

まさに、「ジハードとライフルあるのみ、交渉も会議も対話もない」のです。「話せばわかる」的な発想の日本の国会議論に、著者は疑問を抱いています。改めて「イスラム国」は難しい組織で、今後、厳しい対応が必要になるであろうこと、また、知るべき現実があることを感じました。

学生時代から中東に慣れ親しんだ著者は、多くの土地で日本人ということで歓迎されてきたそうです。ところが、ここ数年で状況がどんどん変化し、中東特派員として駐在している今は、「日本人だから安全」とは言えなくなったとのこと。「日本人だから大丈夫」「ここは日本だから安心」と考えは、すでに過去のものなのです。(中山寒稀)